【記事】
19世紀から20世紀にかけて展開されたパラノイア論は、現代精神医学が生物・自然科学主義へ回帰して病因論仮説を排除したことにより衰退しました。しかし統合失調症と妄想症をめぐる問題の本質が解明されたわけではありません。空想、虚言、詐病、体感異常などは、動物にはなく人間に特有な症状です。本書で空想妄想病、ミトマニー、セネストパチーを紹介する目的は、特異で稀な周辺領域に光を当てることで、未解決なまま永く放置、忘却されているパラノイア論の議論を復活させ、動物とは異なる人間固有なものとは何かという精神医学の基本問題に新たな視点を提供しようとするものです。