【記事】
膜と膜タンパク質の基本的知識と必要な物理化学、そしてそれらが生み出す生物現象を幅広くわかりやすく概説。生命の本質に迫る。
本書の中心テーマは、細胞膜の構造的および組織的原理と、それらの原理がどのように機能を可能にしているかである。本書は、脂質二重層の組織化や膜タンパク質の折れたたみ、組み立て、安定性、機能についての生物学的および生物物理学的な基盤を構築することを目的としている。これにより、生物科学を学ぶ学生が、膜に関する基本的な物理学や物理化学の知識を深められるようにすることを狙っている。同時に、物理学の学生にとっても親しみやすい内容となるように構成されており、生物学への関心を引き出すことが期待される。細胞膜や膜タンパク質の理解は、生物学と物理学の両方を組み合わせたアプローチが不可欠である。本書では、現在私たちが知っていることだけでなく、それがどのように解明されてきたのかについても重視している。そのため、特に序盤の章では、後の内容の基礎となる重要な発見の歴史を紹介する。
生命科学の理解に欠かせない熱力学から始める(第0章)。第1章~第4章では、生体膜、脂質二重層、ペプチド・タンパク質と脂質二重層との相互作用を扱う。重要な概念については、その起源をたどりながら話を進める。第5章~第7章では、分子細胞生物学の視点から膜を観察する。タンパク質はどのようにして細胞膜を横切るか、また膜成分間を移動するか、膜タンパク質はどのように合成され、いろいろな種類の膜に挿入されるのか、タンパク質は細胞膜の形成にどのように役立つか。これらの現象のいくつかをタンパク質と脂質の相互作用の基礎となる物理学に関連づけることができるか、などの問題を取り上げる。後半の第8章~第15章では構造決定法入門と、膜タンパク質の最重要メンバーであるチャネル、トランスポータ(輸送タンパク質)、生物エネルギー論で活躍するタンパク質の巨大複合体、シグナル伝達に関わる細胞表面レポータを扱う。