【記事】
「おいしい食品は美しい構造をもつ」,食品組織学分野の研究者が思っているこ とである。このことは構造がおいしさに深く関連していることを示している。食品のおいしさには、物理的特性や成分、組織構 造などが関与している。表面構造や内部構 造が異なれば、テクスチャーは異なり、それには成分も関与している。また、成分の違いは、組織化学的検出やX線分析などで構造での存在をとらえることができる。 従って、構造を解析することは食品のおいしさを視覚的にとらえ、効果的に理解することが出来る。 難しかった顕微鏡観察の技術はかなり簡便化されてきた。特に卓上型走査電子顕微鏡(SEM)の開発は、誰でも短時間に容易に顕微鏡像をとらえることを可能にした。しかし、そのことが顕微鏡観察技術の 向上を妨げ、何を見ているのかがよくわからない状況をうみだし、顕微鏡像の誤った 解釈も散見される。一方で食品の構造観察の機器として、X線CTや共焦点レーザー顕微鏡、ラマン顕微鏡等を使用した食品のミクロな構造が発表され、顕微鏡技術は急激に進化している。 こうしたことを踏えて本書では、従来の食材の他に新たな食材も加え、構造観察の情報をおいしさとの関連より取り扱うことにした。本書が大学における家政学や農学 部の研究者・学生、食品企業における研究開発の技術者にとって、構造からのおいし さへのアプローチの道標となることを 期待したい。(「発刊にあたって」より一部 抜粋)