【記事】
主に幹細胞を利用した再生医療や細胞治療の研究により、ヒト細胞に関する理解が飛躍的に高まり、さらにはヒト細胞を取り扱うため様々な周辺技術が開発されてきているが、昨今はその成果を様々な分野・用途へ応用しようという試みが盛んになってきている。言わば再生医療技術の水平展開であり、その有力候補の一つに創薬プロセスへの応用が挙げられる。
わが国は伝統的に発酵工学が強く、その延長線上の生物工学に強固な基盤があること、MEMSなどの精緻な「物作り」に関する技術に長けていることなどから、マイクロプロセスを用いてチップ上で細胞を培養し、高い臓器機能を引き出す「臓器チップ」の研究分野においても、沢山の優れた研究者が欧米と比肩した研究開発を展開している。この発展として、一つでも多くの我が国発の「臓器チップ」が産業化され、ひいては我が国の医薬品メーカーの新たなる飛躍へと寄与することを高く期待したい。また、このような「臓器チップ」は、動物実験代替の世界的潮流にも沿ったもので、当面期待される医薬品の効率化ばかりでなく、ありとあらゆるヒト個体の外部刺激への応答や、成長・成熟・疾患発症・老化といったヒトのダイナミックな一生のより良い理解のための新たなin vitroシステムとしても、中長期的に利用が期待される。