【記事】
インサイダーだけが知る、空転するアルツハイマー病研究の現状。
「アルツハイマー病研究の歴史は、急いで治療薬を求めるあまりに袋小路に入り込み、道を見失った物語でもある。……アミロイドカスケードというたったひとつの仮説になぜここまでの勢いがついて、当時議論にのぼっていたさまざまな代替モデルをロードローラーのようにことごとく押しつぶすまでになったのか。」(本文より)
この分野で実績のある研究者が、アカデミズム・製薬産業・研究助成機関三つ巴の迷走の驚くべき裏事状を明らかにする。良心的な告発の書であり、アルツハイマー病についての直近数十年間の認識自体を根本から問い直す、真摯な総括でもある。
著者はアミロイドやタウタンパク質とアルツハイマー病の関連を全否定するような極端な立場ではない。だが、アミロイドカスケード仮説を主軸にした直線的なメカニズムへの一辺倒が、この分野を機能不全にしていると明かす。たとえばアルツハイマー病の定義自体が、薄弱な根拠をもとに構築され、特にアミロイドプラーク(老人斑)を「原因」とする仮説の破綻を覆い隠し、むしろ依存を強める方向に改変されてきたという、驚愕の事実を詳らかにしている。
社会的関心の高い科学の一分野における構造的かつ進行形の問題であり、科学論や失敗学の観点からも貴重な報告だ。