【記事】
本書は教養人に与うる書である。心という実体は実在しない。心が痛むことはない。心が躍ることはない。読者は、このような解釈に戸惑い、心の正体に驚き、やがて首肯する。それは高次教養レベルへの自然な歩みである。
漱石は心ということばを使わずに『こヽろ』が書けたかもしれない。なぜなら心は不要だから。確かに心は魅力的なことばだ。だが、悩める教養人が重苦しくなった心と呼ばれる外套を脱ぎ捨てると、そこに素朴な人間が出現する。その時、心が、否、体が軽くなる。
話題は愛、比喩、心と体、感情、幸せ。教養を刺激しながら、心が神出鬼没する世界へ、ボンボヤージュ。