【記事】
世界観の変わり方を語ることで、世界を変えてしまった本である。新しい読者への案内としてI・ハッキングによる「序説」を巻頭に付した新版(50周年記念版)。クーンの語りをこまやかに掬い上げたクリアな新訳でお届けする。
原著初版刊行から半世紀以上が過ぎ、その影響はあらためて意識しがたいほど私たちの社会に広く深く浸透している。今日の読者の読み方は、著者の想定をはるかに超えて多様だろう。あなたはどんな動機でこの本を手に取るだろうか。科学の進歩とは何かを、根本から見つめてみるためだろうか。「パラダイム」「通常科学」「危機」といった概念装置についての、クーン自身の洞見に触れるためだろうか。ニュートンの「革命」、ラヴォアジエの見た「アノマリー」など数多の歴史的事例を手がかりに、著者の目の覚めるような理論的謎解きを追ってみるためだろうか。20世紀のもっとも影響力の偉大な書に数えられる本を読むという体験を求めてだろうか。
どんな動機で手に取るにしろ、その期待が裏切られることはない。本書のダイナミックでありながらも周到な議論が描きだす科学観は、すべての読者を驚かせ、つねに刺激しつづけるだろう。