【目次】
第一章 不思議なチーズ──内なる声と思考の関係
第二章 ガス灯をつける──内観という方法
第三章 おしゃべりな器官の内側──自分の異なる部分どうしが会話する
第四章 ふたつの車──子どもの私的発話と内言の発達
第五章 思考の博物学──内言の種類、外言との関連
第六章 ページ上の声──黙読について
第七章 私の合唱──対話的思考と創造性
第八章 私ではない──聴声の経験
第九章 さまざまな声──聴声経験と内言の多様性に注目する
第十章 鳩の声──古代・中世の聴声
第十一章 自らの声を聴く脳──言語性幻聴の神経科学
第十二章 おしゃべりなミューズ──作家が聴く声について
第十三章 過去からのメッセージ──トラウマ的記憶と聴声
第十四章 しゃべらない声──非聴覚的・非言語的な経験
第十五章 自分自身と会話する──「声」の重要性の探究
【記事】
あなたの頭の中の声は、どんなスピードで語りますか? 脳内の語りをつねに使って思考しているのに、私たちはこんな素朴な問いにさえ答えられない。本書は、内なる声(内言)や聴声(幻聴)の本質を探り、それらと思考や意識との関係を捉えなおす試みだ。
読めば、内言や聴声の経験の想像を超える多様さに、まず驚かされる。脳内の「声」は当人の声に似ているか、完全な文章で語るかといった一般的性質はもちろん、スポーツ選手のセルフトーク、ろう者の場合、小説家が登場人物の台詞を綴る場合、黙読、fMRIで捉えた特徴など、内言や聴声があらゆる方向から調べられている。「声」の経験の圧倒的な多様性の前では、日常的に感覚している脳内の語りと、「病的」とされてきた聴声の間の線引きも色褪せはじめる。
「多くの人の内言には、ほかの声が満ちあふれているのである。」「私たちは聴声経験の聴覚的性質にこだわるのをやめて、見過ごされてきた事実に目を向けるべきである。まず、声は交流できる存在だということ。」これらは、「対話的思考」と呼ぶべき本性への手がかりであると著者は言う。ピアジェ、ヴィゴツキーといった偉大な心理学者たちも、内言や聴声を意識の本性についての大きな手がかりとした。読み進めるほどに心を奪われる、ユニークな探究の書。