精霊に捕まって倒れる 医療者とモン族の患者、二つの文化の衝突
【目次】
第一章 誕生
第二章 魚のスープ
第三章 精霊に捕まって倒れる
第四章 医者は脳みそを食べるのか?
第五章 指示どおりに服用すること
第六章 高速脳皮質間鉛療法
第七章 政府のもの
第八章 フォアとナオカオ
第九章 少しの薬と少しの〈ネン〉
第一〇章 戦い
第一一章 重大な発作
第一二章 逃走
第一三章 コードX
第一四章 人種の坩堝
第一五章 金とがらくた
第一六章 なんだってまたマーセドに?
第一七章 八つの問い
第一八章 命か魂か
第一九章 供犠
【記事】
生死がせめぎ合う医療という場における異文化へのまなざしの重さを、感性豊かに、痛切に物語る傑作ノンフィクション。
ラオスから難民としてアメリカに来たモン族の一家の子、リア・リーが、てんかんの症状でカリフォルニア州の病院に運ばれてくる。しかし幼少のリアを支える両親と病院スタッフの間には、文化の違いや言語の壁ゆえの行き違いが積もってしまう。
モン族の家族の側にも医師たちの側にも、少女を救おうとする渾身の努力があった。だが両者の認識は、ことごとく衝突していた。相互の疑心は膨れ上がり、そして──。
著者は、医師たちが「愚鈍で感情に乏しい、寡黙」と評したリアの両親やモンの人びとから生き生きとした生活と文化の語りを引き出し、モン族の視点で見た事の経緯を浮かび上がらせる。その一方で医師たちからもこまやかな聞き取りを重ね、現代的な医療文化と、それが医療従事者に課している責務や意識が、リアの経過にどう関わっていたかを丹念に掘り起こしている。
本書の随所に、異文化へのアプローチの手がかりがある。原書は1997年刊行以来、アメリカで医療、福祉、ジャーナリズム、文化人類学など幅広い分野の必読書となった。医学的分類の「疾患」とは異なる「病い」の概念も広く紹介し、ケアの認識を変えたとも評される。全米批評家協会賞受賞作。