【記事】
皮膚科を受診する患者さんはさまざまな愁訴を抱えて外来のドアをノックする。特に初診患者さんの場合は自分が一番悩んでいるポイントを自分のことばで医師に投げかける。たとえば「ニキビが治らないんです」という愁訴の場合、患者さんはもちろん「尋常性痤瘡」とはいわずに「ニキビ」というありふれた用語を用いるので、その用語の意味するところを把握する必要がある。次のステップとして愁訴となった皮膚疾患が「ニキビ」かどうかは医師が診断するまでは白紙であるべきである。顔面に発疹があればすべて「ニキビ」という患者さんもいるし、全く別の皮膚疾患(酒皶や結節性硬化症の顔面血管線維腫)を「ニキビ」と思っているかもしれない。従って初診医は「面皰がある」「脂腺性毛包がある好発部位である」などの専門知識を駆使して発疹を読み臨床診断を下す必要がある。この段階で患者さんの愁訴を鵜呑みにすることで誤診や不適切な治療に陥ることもある。正しい臨床診断の上に、はじめて標準治療や多彩な治療選択オプションが生まれるのである。
本書では日常診療の中で患者さんが語るありふれた愁訴を40件ほど選び、どのようなアルゴリズムで皮膚科学の知識を活かしながら正しい診断に至るべきかという視点でエキスパートの先生方に書き下ろしていただいた。患者さんのことばはきわめて即物的ではあるが解釈が難しいこともある。そのような愁訴の中から重要な情報を選別し、発疹や臨床像と照合しながら正しい診断に至る作業は、平易なように見えながら実はかなりの経験を要するものである。
是非、本書でバーチャルクリニックでの名医の診断過程をひもときながらリアルワールドにおけるありふれた皮膚疾患に対する実践的なスキルを涵養し、明日からの日常診療に大いにお役立ていただければ編集者として本望である。