【記事】
「財政赤字よりも共感の不足こそが社会的分断をもたらす深刻な問題である」――かつて元アメリカ大統領バラク・オバマがそう必要性を説いたように、近年さまざまな場面で「共感」が重視されるようになった。
医療や福祉などの現場では、1970年代以降に患者や利用者への心理的援助として共感が注目され、その後、患者中心の支援を行うために援助者が取るべき基本的姿勢の一つに位置づけられるようになった。
しかしながら、ジグムント・フロイトによって創始され、20世紀を代表する心の理論となった精神分析では、意外にも共感が積極的に評価されるまでに半世紀以上の時間を要した。
共感とは、私たちの心にどのような影響を与えるのだろうか? 本書は代表的精神分析家たちの生涯を心理歴史学的方法で探究する。彼らにとって共感がどんなメリット/デメリットを持つものであったかをたどり、共感の本質的困難さと、その困難を越えてなお共感を大切にすることの意義について考え直す。