【記事】
「このような断片的な事柄も、実験室とか野外で行なってきた発疹チフスの研究の余暇に、つれづれなるままに書きつづけられてきたものである。伝染病を追って世界中を駈け回っていると、伝染病も人間の数世代にも及ぶそれ自身の歴史を持ち、また生長をつづけ、流浪の旅をつづけているということが理解できるようになり、伝記として取り扱っても差支えないものであって、数世紀にわたって生きつづけてきた生物学的な個体と見做すことができるようになってくる。……長年にわたって伝染病を相手として取り組んでいるうちに、国家の運命に、また確かに文明の興隆と滅亡のうえにも、これらの伝染病による災害が極めて重要な影響を与えてきたということに、われわれは深く印象づけられてきた。」(はじめに)
細菌学者として、発疹チフスの病原菌に対するワクチンの研究に寄与した、ハンス・ジンサーによる1935年刊行の古典。アメリカから、発疹チフスが流行していたセルビア、ロシアへと赴き、調査をした経験を動機として執筆された。
発疹チフスの、ネズミ、シラミ、ヒトの間での疫学、全世界への伝播を中心に、古代から20世紀までの伝染病の歴史を描く。新しい病気と向かいあう21世紀のわれわれも、本書から多くの示唆を得るであろう。