【記事】
初めてシワに沿ってコラーゲンを恐る恐る注入した時から,約30年が過ぎた.
オルガノーゲンやパラフィンなど,さまざまな人たちが注入していた問題のある異物を週に何例も手術室で摘出していたわれわれの世代にとって,間違いなく当時,「注入イコール悪」という印象を抱いていた.そのような空気のなかで,私の注入治療はコラーゲン注入からスタートした.大学の外来の片隅でのスタートである.手術からみると,何となく引け目のある治療に感じることもあった.ただ,1988年に起こったケミカルピーリングブームからわかるように,時代はより身近で効果が出る治療法を求めていた.
そのようななかでのヒアルロン酸の登場である.同時に,次々と顔面解剖,形態学的な加齢減少のメカニズムがより詳細にわかってきた.ヒアルロン酸の注入手技自体も単にシワを埋める注入法から,ボリュームを出す注入法,目の錯覚を利用する注入法,リガメントを補強する注入法,
ついには動きを調整する注入法まで,あっという間に考案された.これらはすべて,今回推薦文を書いてくださった世界中の優秀なインジェクターたちが競って,新しい注入概念,注入テクニックを編み出した結果であり,そして現在も生み出し続けている
さらにこの,急速な発展の原因の1つに製材の進化も見逃せない.さまざまな製薬メーカーが優れた多様な性質の製材を提供してきている.
注入治療で成功するには,しっかりとしたプランニング,安定した技術,安全な製材事故を起こさないための正確な解剖知識が必要である.どれを欠いてもわれわれが望む患者の幸せには到達しない.
本書では,可能な限り解剖と並行して書いたつもりである.日本を支えるインジェクターの先生方に少しでもお役に立てれば幸いである.
本書を制作するにあたり,メディカルレビュー社の松尾奈緒美様,横山奈緒様,勝田羊奈子様,素晴らしい解剖イラストを描いてくださった佐藤良孝様,自由が丘クリニックの井上香,藤木徹哉に感謝の意をささげたい.