【記事】
下肢の存在意義は,大腿~足部に至るまでの総体で「荷重を支え,体を移動させる」ことです。下肢の構造をシンプルに考えると,「荷重伝達路である骨格組織」「筋・神経血管束などの機能組織」「これらを保護する被覆組織(皮膚)」ということになりますが,これらのうちどれが欠けても,下肢としての機能は損なわれます。
下肢組織再建が必要な病態は、外傷や腫瘍切除後欠損が多くを占めます。そして,骨折や骨軟部腫瘍切除後には,荷重耐久性のための大きな内固定インプラントや靭帯再建などが必要となることもあり,これらも血行組織で被覆しなければなりません。
したがって「より機能良く,感染を生じさせず,耐久性のある下肢を再建する」には,形成外科的な軟部再建に対しての知識だけではなく,骨・関節・靭帯/ 腱・インプラントに対する整形外科的理解も必要となります。その結果,「最適解」は,従来の一般的に予想されるReconstruction Ladder よりも一段上であるかも知れません(例えば,単純に軟部欠損を閉鎖するだけならNPWT を使用した後に植皮で閉鎖はできても,骨折などのインプラント固定を考慮すると局所筋弁が適正である場合や,使用できる血管茎の制約からは遊離皮弁のほうがより好ましい場合などです)。重症度・機能的治療・患者の全身状態・治療の進行状況を加味し,柔軟にLadderを自在に選択・変更できるバランス感覚を大切にしたい,それが第3 巻の趣旨です。
「動く」ことは,われわれ人間の根源的な欲求の一つです。患者の幸福のためには,移動の際に苦痛となるような疼痛や,すぐに皮膚潰瘍を起こすような脆弱さがあってはならず,また,面倒な消毒などが不要でメンテナンスフリーであるべきでしょう。 こうした「日常」を取り戻すため,日夜奮闘する下肢再建外科医達が行っている治療のエッセンスをお伝えできれば幸いです。